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2026.08.01

道具

水平屋商店 御中

約束の一寸ノミ

浅草に以前あった「水平屋商店」は、知る人ぞ知る道具と刃物の名店でした。

水平屋のご主人がお亡くなりになり、2024年の秋口にお店もひっそりと幕を閉じました。

道具屋のご主人というのは、現場の職人に負けず劣らず職人気質な方が多いのですが、水平屋のご主人も、名物頑固
オヤジとして知られた方でした。

私が初めてお店を訪れた日のことです。

緊張しながら引き戸を開けようとした時、店の奥からものすごい怒鳴り声が聞こえてきたのです。

引き戸を少しだけ開けて様子をうかがうと、ご主人が電話口の相手を烈火のごとく叱りつけていました。

「これは、来るタイミングを間違えたな … 」

電話が終わるのをしばらく待ち、

「ごめんくださ~い」

少し声が震えていたかもしれません。

ところが、ご主人は何事もなかったかのように応対してくださり、数本のノミを並べてくれました。その中から一本
を選んで購入したのが、水平屋との最初のご縁でした。

そのときに、いつか豆カンナの刃だけを手に入れたいと相談すると、

「欲しかったら作らせるからね」

と、あっさり言ってくださったのです。

通常、カンナは台木と刃が一組で販売されるため、刃だけを手に入れることはまずできません。
それにもかかわらず、ご主人は嫌な顔ひとつせず、私の無理なお願いを受け入れてくださいました。

その後、再びお店を訪れ、豆カンナの刃を何枚か購入することができました。

そして帰り際、

「次は、いい一寸ノミをお願いします」

そうお願いして店を後にしました。

しかし、その約束を果たせないままとなってしまいました。

私たち職人にとって欠かすことのできない刃物を扱う道具屋さんですが、数年に一度しか顔をあわせないこともあります。それでも、その存在は何ものにも代え難いのです。

若造だった私にも分け隔てなく接し、無理な注文にも応えてくださった水平屋のご主人。
遅ればせながら、感謝の気持ちとともに、心よりご冥福をお祈り申し上げます。

いよいよ愛用のノミも小さくなってきました。
約束の一寸ノミを探さなくてはいけません …

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